こころの診療所 から

宝塚市大橋クリニックの院長ブログです

本の紹介: それでも人生にイエスと言う

コロナウィルスでなかなか家から出づらくなりましたね。人と会うのもままならず。

仕事や生活で大きな変化に大きなストレスを感じていらっしゃる方も多いと思います。

私は2社の産業医をしていて、会社でもテレワークの比重が進み、皆様試行錯誤されているようです。通常は会社に伺って面談をしていますが、今月からパソコンを使って、面談をしています。

さて、そんな活動が制限されがちな中でもリフレッシュする方法や、励みになるような何かをご紹介できないかと探しております。

科学的に証明された方法となるとどうしてもつまらない方法だったり、あまりにも当たり前のような方法だったり(運動をしなさい・・・とか)だったりするので、あまりお役に立たないような気がしています。

ですので、主観的なものをいくつか紹介できたらと思います。

本日は、VEフランクルという人の「それでも人生にイエスと言う」という本をご紹介します。

 

それでも人生にイエスと言う

それでも人生にイエスと言う

 

 

この方は精神科医なのですが、アウシュビッツ収容所に収監されて、最終的には生還した方です。収容所でどのような方が生きていき、亡くなっていったのか。生還したのちもどのような人が悲劇から立ち直っていったのか、ということを書かれています。

コロナウィルスでの外出自粛はアウシュビッツには程遠いとは思いますが、それでも、自由を制限されている点では共通点があると思い、この本を思い出しました。

私は学生時代にこの本を読んで大変刺激を受けた記憶があります。

「自分が人生に何を期待するかではなく、人生が自分に何を期待しているのか」それを問え、というような一節がありました。

あれもしたい、これもしたいという欲望は尽きませんが、一方で、これまでの人生から、自分はどう生きていったらよいか、人生に対して(人や世の中に対して?)何をしていけるのかを問いかけるのも一つの視点だと思いました。ただ、これもやりすぎると疲れそうですが・・・

私の父は私が医師を志したころに亡くなりましたが、入院中にこの本を読んで良い本だったと言っていました。それも心に残っていることです。

 

昨日久々に、この本を開いてみたのですが、思いのほか読みづらかったです。昔はすいすい読めた気がしていたのに。講演録のような感じで、この本の後半が、この本のタイトルにある、「それでも人生にイエスと言う」の講演録のようです。そちらのほうがまだ読みやすいかと。

それから、この本は講演録ですが、実際に同じ著者がアウシュビッツでの体験をつづったのが「夜と霧」という本です。昨日本棚を探したのですが、見つかりませんでした。実家に置いてきたのかもしれません。こちらはさらに長い本だったような気がしますが、もうずいぶん前に読んだので記憶があいまいです。この機に再度読んでみようかなと、アマゾンで注文したところです。

 

夜と霧 新版

夜と霧 新版

 

 

もしも時間があるときには、これまでのことを振り返って、ご自身を支えてくれたものを思い出すこともよいのかもしれませんね。

本の紹介: ひきこもりなんて、したくなかった

過酷な人間関係から、不登校、精神科入院、ひきこもり、そこから新しい人間関係を見つけていく実体験のお話です。

非常に表現力のある方で、素直な様子が文章から伝わってきました。家族や教師、医師とのつらい過去の話は、読んでいて胸を締め付けられるようでした。特に私も日常診療を問われて、反省させられるような気持ちになりました。

そうはいっても、そこから色々な偶然から新しい人間関係が生まれて、徐々に自分自身を取り戻していく姿はあたたかい希望の光のようでした。

先述した通り、序盤は読むのが辛かったですが、人に対してとる姿勢がどれだけ他の人の人生を動かすのか、読みながら記憶に刻むことは価値があると思います。

日々過ごしていて、あれができなかったとか、これがないとか、自分を責めたり、人生にがっかりすることはあるかもしれませんが、本当に自分にとってそれが価値があることなのか、ゆっくり考える時間を持つことも必要だと、この本を読んで思いました。

 

ひきこもりなんて、したくなかった

ひきこもりなんて、したくなかった

  • 作者:林 尚実
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2003/09
  • メディア: 単行本
 

本の紹介: 私がひきこもった理由

本の紹介です。「私がひきこもった理由」田辺裕著

ひきこもり経験者が15人のひきこもり経験者に会ってインタビューするという本です。なかなかできるものじゃありません。インタビューの雰囲気も伝わってきます。

それぞれの方の話を読んでいると、一口にひきこもりといっても様々だし、家庭環境も様々で、こういう家族だからこうなるとか、こういう性格だからこうなったと一概に言えないことが良くわかります。場合によっては人によって逆のことを言っていたりもして、やはりそれぞれに違う問題なのだなと思いました。

どんなことを経験して、感じて、考えて過ごしてきたのか、振り返ってどう思っているのか、多くのことを知ることができます。

この本を読んで具体的にこうしたらよい、ということははっきりしないこともあるかもしれませんが、少なくとも同じように悩んでいる人がいる、同じようにもがいている人がいるということを知ることができます。

ひきこもっている方にも、その家族にも、支援者にもぜひ一読いただきたい本だと思います。

 

私がひきこもった理由

私がひきこもった理由

  • 作者:田辺 裕
  • 出版社/メーカー: ブックマン社
  • 発売日: 2000/07/01
  • メディア: 単行本
 

本の紹介: 「双極性障害の人の気持ちを考える本」

本の紹介です「双極性障害の人の気持ちを考える本」加藤忠史著。

以前、加藤先生の本を紹介しました。「これだけは知っておきたい双極性障害」という本で、双極性障害躁うつ病)についての様子、治療など全体像を説明してあるものです。

今回ご紹介するのは、双極性障害の方や周りの方がどんなことを感じているかをリアルに紹介した本です。双極性障害の方や家族がその都度戸惑われたり、悩まれたりするポイントで、どう考えていたか、生の声が書かれてある点が患者さんの支えになると思います。

発病、診断を告げられた時にどう感じたか、症状が不安定な時にどう思っていたか、社会生活、人間関係・・・悩ましいときに本書を開くと、他の方もそう感じていたのかということがわかるかもしれません。またその都度医師の解説も書かれてあり、疑問への答えとなります。うつで発病した人、躁で発病した人などきめ細かく描かれてあります。

その割には文字が多くなく、本も厚くないのでとても読みやすいですよ。

ぜひ、加藤忠史先生のこの2冊は手元に置いて困ったときに開いてみるとよいと思います。私も患者さんによくお勧めする本です。

 

双極性障害(躁うつ病)の人の気持ちを考える本 (こころライブラリーイラスト版)

双極性障害(躁うつ病)の人の気持ちを考える本 (こころライブラリーイラスト版)

  • 発売日: 2013/09/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

本の紹介: ひきこもる心のケア (どちらかというと専門家・支援者向け)

今日は本の紹介です。「ひきこもる心のケア」杉本賢治編です。

引きこもり経験がある著者が専門家のもとをおとずれてインタビューするという面白い本です。大学の職員や地域の支援者などなどへのインタビューですが、支援者の中にはひきこもり経験者もいて、なかなか実感のこもった本です。

ひきこもりの原因論やひきこもりの方々の問題にどう対応しているかというかというのが主なお話です。各々の理論も興味深いですが、実際の支援内容やそれができてきた過程の話も面白いです。どちかというと支援する立ち場にある人がどんなことをしていけばよいのか考えるときに参考になるかなと思いました。

編者が対人恐怖を持っていたということで、対人恐怖の話題に偏りがちなインタビューもありましたが、勉強になりました。

 

ひきこもる心のケア―ひきこもり経験者が聞く10のインタビュー (世界思想社)

ひきこもる心のケア―ひきこもり経験者が聞く10のインタビュー (世界思想社)

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 世界思想社
  • 発売日: 2015/08/27
  • メディア: 単行本
 

医療者向け: 10年前の研究が新聞に取り上げられました 「未知の感染症アウトブレイク下で病院勤務者のやる気を出す要因とは?」

コロナウィルス感染症のニュースが日々流れています。2009年に新型インフルエンザが流行した時も、感染症のリスクの高さがわからず、様々な方々が恐ろしい思いをしました。ずいぶん昔のことなので忘れている方も多いかもしれません。当時もマスクが店から売り切れていました。

その時私は神戸市立医療センター中央市民病院に勤務していました。感染防護服に身を包み、発熱外来に出務しました。私の科の部長も率先して発熱外来で仕事をされていたので、私は怖さはもちろん感じましたが、やや感情が高ぶった感じでもありました。

結局新型インフルエンザの騒動は1か月弱で収まり、WHOからパンデミック宣言がだされたときには、あまりリスクは高くないということがわかり世間は落ち着いていきました。

その際に、このような状況下で働いた医療関係者(医師などだけではなく、事務の方とか警備員の方も含めて)がどのくらいのストレスを感じたのか、何が勤務者のモチベーションを高めたり、ひるませたりする要因となったかを調査しました。

この時に出版した論文に朝日新聞の記者の方が興味を持ってくださり、先日記事にしてくださいました。少しでも多くの方の役に立てばと思っています。また、このような状況の時に記録しておくことの大切さを感じました。

当時指導してくださった部長やスタッフ、また調査に協力してくださった方々には再度感謝です。

www.asahi.com

当時の研究論文はこちら。

bmcpublichealth.biomedcentral.com

2009年新型インフルエンザ流行の 医療従事者に与えた精神的影響

https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1120020111.pdf

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

本の紹介: ボクはやっと認知症のことがわかった

本の紹介です。「ボクはやっと認知症のことがわかった」長谷川和夫著。

長谷川先生は認知症研究の世界で日本では超有名人です。物忘れの検査には代表的な2つの検査があります。MMSEというものと長谷川式スケールです。後者を作ったのが長谷川先生です。

私自身は海外の方が作ったMMSEを使用することが多いですが、実臨床では長谷川式スケールを使われている方もたくさんいます。実はMMSEが発表される1年前に長谷川式スケールが作られたということ。すごいことです。

さて、本書はそんな認知症の世界で最も有名な精神科医認知症になって、ご自身の体験を書いた本です。臨床家・研究者だけあって、認知症の方の内面について明確なイメージで書かれています。

長谷川先生はデイサービスなど認知症に関わる制度も提唱してこられた先生ですが、サービスを受ける立場となり感じていることなど、ありのままを記載されていらっしゃいます。

ご自身の人生についても振り返っておられますが、おそらく大変率直で、患者さんの気持ちを大切にされた先生だったのだろうと思います。

このような高名な先生が、自らをさらけだすような本を書かれるというのは、ご家族も含めて勇気が必要に思います。ご自身はキリスト教の信者ということで、本の中に好きな聖書の一節が紹介されていますが、それを読むと、なるほど、だからこそご自身をみんなのために役立てたいと思っていらっしゃるのかと思いました。私自身ももっと人のために何かをするという気持ちを磨かなければと思った次第です。ちなみにその部分を印象すると、

「一粒の麦、地に落ちて死なずば、唯一つにて在らん、もし死なば、多くの果を結ぶべし。」は新約聖書ヨハネ伝』第十二章二十四節の言葉。一つの麦はそのままでは一粒だが、地に落ち、死んで芽を出せばやがて多くの実がなるというキリストの教えから、人々の幸せのために進んで犠牲になる人を指す。

 私自身はキリスト教の信者というわけでもなく、医療の中に宗教を持ち込むのも、それぞれの患者さんの人生観があるので抵抗がありますが、自身の生き方としてよい指針を持ち、大事にしていく勇気があれば、たとえつらいことが多くても、それは素晴らしい人生のように思います。

認知症の方の思いを知りたい方には大変お勧めな本だと思います。