こころの診療所 から

宝塚市大橋クリニックの院長ブログです

本の紹介: 病的ギャンブラー救出マニュアル

今回も本の紹介です。「病的ギャンブラー救出マニュアル」伊波真理雄著です。

 

ギャンブル依存についての本ですが、医療者だけではなく、NPOの方や実際にギャンブル依存の経験者も執筆者に入っており(というかそちらの方が執筆している量が圧倒的に多い)、非常にリアルな本です。

一筋縄ではいかないことが切々と伝わってきます。ご家族の対応のアドバイスも繰り返し書かれてあります。

非常に非常にお勧めな本ですが、残念なことに現在、重版未定です。ぜひとも出版社は再度発行してほしいものです。

 

本の紹介: 「もし部下が発達障害だったら」

本日は本の紹介です。「もし部下が発達障害だったら」佐藤恵美著です。

当院でもたまに会社の上司から発達障害じゃないか見てもらってこいと言われて受診する方がいます。そんな現状と医療側のできることをしっかりと紹介してくれているのが本書です。

 

もし部下が発達障害だったら

もし部下が発達障害だったら

 

 

精神障害一般に言えることですが、精神障害はここからここが正常、ここからここ異常というようにかっちりを線引きをすることが難しいことが多々あります。発達障害も同じです。黒から白に色が徐々に変化するように、正常と異常の境もグラデーションになっています。また、置かれた環境で人の性質が浮き上がったりすることもあります。この2つの要因だけでも正常と異常を判断するのはとても難しいのです。

扱いづらい人がいると、発達障害ではないかと決めつける方がいますが、まずは発達障害とは何かを良く知ってみること、それから病気と思っていない人が病気といわれる気持ちをよく考えることがまず必要だと思います。

注意欠陥多動症には薬が効果があることがありますが、自閉症スペクトラム障害に対する薬剤はなかなかなく、結局はどう対処していくか、どう環境調節していくかが中心となります。診断を勧める場合には、勧めた人もそこまでサポートしていく必要があるということをしっかり認識しておいた方がよいでしょう。

そこの事情を本書はより詳しく説明してくれています。もし部下が発達障害だったら、というタイトルですが、ご本人向けの対処法もしっかり書いてあります。読みやすいですし、おすすめです。

会社の現場も医療のどちらもよくご存じな方が書かれているのだろうなと思います。

 

非接触体温計を設置しました

なかなか新型コロナも収まらず、何となく安定しない気持ちを持たれている方も多いのではないでしょうか?

当院では待合室がなるべく密にならないように心がけておりますが、午前中は予約制ではないので、どうしても人が重なる時があります。少しでもリスクを下げるために、非接触体温計を設置しました。

すこし高さを低めにしてあるので、背が高い方は若干かがんでいただかなければいけませんが、ご協力お願い申し上げます。

自分の姿をこの機械で見ると、ずいぶんと白髪が増えていました。わかめでも食べたらよいでしょうか・・・

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接触体温計です

 

本の紹介: 「会社に行きたくない」と泣いていた僕が無敵になった理由

今日は本の紹介です。調子が良くなった患者さんから聞いた本です。タイトルが強烈で、うーーーん大丈夫かなという感じですが、読んでみるとなかなかよい内容だったのでご紹介します。 

 この本の主のメッセージは自己肯定感を高めることです。簡単に言うと、今ある自分でいいんだよと認められるようになると楽になるということです。これを妨げているのが、「思い込み」で、自分を責めるのが癖になったり、相手に反抗するのが癖になったりします。じゃあどうしたらよいか、ということを色々な場面について解説してくれていました。

反抗タイプ、悲観タイプとわけて解説が出ていますが、結構たくさん書かれてあるので、自分の状況に合わせたところだけピックアップして読むのもありでしょう。

なかなかお勧めですよ。

専門家向け: うつ病についての論文が出版されました

うつ病とは何か?疾患概念に関わる思い入れのある研究が出版されました。

link.springer.com

うつ病抗うつ薬による治療には根強い考えがあります。それは、内因性うつ病DSMでいうところのメランコリックタイプには抗うつ薬が良く効くが、そうでないものにはあまり効かないというものです。私はそのように教育されてきました。
実は、研究上はこれを否定する結果のほうが多数です。ところが、これまでの研究の欠点は、メランコリックタイプvsそれ以外に抗うつ薬を投与して比較するものや、メランコリックタイプの集団の中で抗うつ薬vsプラセボで比較するものばかりでした。
しかし、「メランコリックタイプはそれ以外のうつ病よりも抗うつ薬がよく効く」という疑問に正確に答えるには、抗うつ薬の効果からプラセボの効果を差し引いたものを指標として、メランコリックタイプとそうでないうつ病の間で比較する必要があります。
今回の研究はそれを実施しました。
メランコリックタイプがそのほかのうつ病よりもプラセボに比べて抗うつ薬への反応は強いとは言えないという結果になりました。
確かに、メランコリックタイプは抗うつ薬への反応が他のうつ病よりも大きい。しかし!プラセボに対する反応もメランコリックタイプは他のうつ病よりも大きい。従って、差し引きすると、そんなにかわらないということになりました。これはlinear mixed modelを使った結果です。
これが正しいとすると、メランコリックタイプとは何なのか?内因性という概念は何なのか?ロマンがあります。
以前、Amokという題材、歴史軸という切り口で病気とは何か?を考察しましたが、このように実証的にアプローチする方法も格好いいなと思う今日この頃です。
今回の論文は統計家の先生の解析や教授の指導によるところが大きいし、データ自体も数社の製薬会社のIndividual participants dataを用いました。これにはInternational College of Neuropsychopharmacology (CINP), the Japanese Society of Neuropsychopharmacology (JSNP)と製薬企業の協力があってできたものでした。私が筆頭著者ですが、まったくもって私の力とは言えない研究です。

本の紹介: 自分でできる認知行動療法

今日は本の紹介です。「自分でできる認知行動療法 うつ・パニック症・強迫症のやさしい治し方」清水栄司著

先日認知行動療法のマンガをご紹介しましたが、こちらは実際にカウンセリングを受けるときはこんな感じで流れていくのだというイメージを持っていただくような本です。

「自分でできる」と書いてありますが、ちょっとこれだけでは難しいような気がします。むしろ認知行動療法のカウンセリングというのはどんなものだろう、どんな風に進んでいくんだろうというイメージづくりにはよいと思います。

それからパニック症や強迫症というのがどんな病気かを知るにも良いです。とても簡単にですが、やさしく説明してくれています。

認知行動療法のカウンセリングに興味を持った時や、パニック症、強迫症というのがどんなものか知りたいと思ったときに見てみるとよいと思います。

 

 

”ひきこもり”についての論文を書きました(研究者向け)

しばらくブログの投稿をしていませんでした・・・なんでしょうか、気力が今一つ湧かず。気候で調子を崩す患者さんもいらっしゃいますが、私もそんなところがあるのかもしれません。

さて、以前勤めていたクリニックで行った”ひきこもり”に関する研究が論文になりました。
 
どのくらいの”ひきこもり”経験者がクリニックの初診を占めて、その後どうなっていくのか?

bmcpsychiatry.biomedcentral.com

驚くべきことに50%弱の初診患者さんが過去にひきこもりの経験があるか、現在ひきこもり状態にあることがわかりました。調査したクリニックは特殊で、精神保健福祉士が多く、デイケア、訪問診療に力を入れていて、ひきこもり外来を週2日午前のみ開いていました。しかし、それにしても多い。びっくりです。特に過去にひきこもり経験がある方がたくさんいたのには驚きました。
現在、当院でも同様の結果になるか、検討しよう思っています。
介入は試行錯誤です。本当に悩ましい。切迫してくると私たちも強いプレッシャーを感じます。介入も研究をすすめなければ。