こころの診療所 から

宝塚市大橋クリニックの院長ブログです

松本俊彦先生の講演を聞きに行きました+本の紹介

先日、松本俊彦先生の講演を聞きに行きました。

松本先生は国立精神・神経センター精神保健研究所薬物依存研究部の部長先生です。精神科分野ではとても有名な方で、マスコミにもよく出ています。

はじめて先生のお話を伺いましたが、とても素晴らしい先生でした。人柄といい、臨床の実践としい、研究といい、一流の方でした。お話をうかがうだけでモチベーションが上がりました。

印象深かったのは、依存症の問題は、薬物それ自体よりも、依存症をもった方が孤立してしまうことだ、ということです。松本先生はSMAAPという集団プログラムを作り、各地の精神保健センターに導入されています。

ただ、この孤立という話は依存症だけではなくて、苦悩一般に言えることかもしれません。辛さが人に言えない、わかってもらえない、言う人がいない、というのは何よりも辛いことのように思います。

そういう意味では、私たちの診療は悩みを伺い、理解して、場合によっては人や場所、物とのつながりを回復するお手伝いをするのが、根本的な目標なのかもしれません。

ただ、聞き手によっては、問題が大きな場合や対処がわからない場合には、不安や恐怖思い通りにならない感じを感じて、逆に非難や怒りを返してしまう人もいます。これもまたよくあることで、私たちは、こういった色々な場面での人の反応についてお伝えしながら物事を冷静にとらえて現実の妥当な解釈を一緒に考えていくことも大事なのでしょう。

 

さて、そのようなわけで、松本先生の本を何冊か読んでみようと思いました。

まずは「人はなぜ依存症になるのか」という本を読みました。ちょっと文字が多く専門家向けかもしれません。2008年に出版された英語の本を松本先生が翻訳されたものです。

主のメッセージは、依存症に至った背景をよく聞き、理解せよということ、またその依存によって何を変えようとしているのかを問うということだと思います。本の中には、依存によって怒りを鎮めようとしたり、対人関係を変えようとしたりなどして依存が続いてしまっているという例がありました。依存に代わる対処法を見つけていくということが大切で、そのためにはそこに至った背景を知らなければならないということです。

本の最終章では自己治療仮説にもとづいた治療と回復の指針という項目があり、印象に残った部分を抜粋します。

AAミーティングにおける「言いっ放し、聞きっ放し」は、他のメンバーの話を通じて、依存症の基底にある自己破壊的な性格特性が、他のメンバーの話を通じて、他のメンバーだけでなく、自らの内にもある、という事実を認めるのに役立つ。そして、そのような体験を重ねる中で、メンバーたちは、人生における最悪の運命とは、「苦しみを抱えることではなく、一人で苦しむことである」ということを理解するようになるのである。その結果、「人がどうなろうと関係ない、誰も自分に構わないでほしい」という防御的な自己充足が「人は一人では生きていけない、人は相互に助け合わねばならない」という相互扶助の認識へと変化していく。その変化は、ミーティングに参加するようになってからの時間経過にしたがって、自己陶酔から利他主義、あるいは他者への思いやりへと、段階的に生じていく。つまり、AAは、「自分の人生を管理するのも、自分自身の世話をするのも自分だけでやるのが最善である」という考えに異を唱えているわけである。

 (「人はなぜ依存症になるのか 自己治療としてのアディクション」より)

 ちなみにこのAAというのはアルコホーリックスアノニマスというアルコール依存症を抱える方のための自助会です。日本にはこの団体のほか、断酒会というものもあります。

aajapan.org

 

(下記はちょっと専門家向け。また一般の方向けの本も探してみますね)

人はなぜ依存症になるのか 自己治療としてのアディクション

人はなぜ依存症になるのか 自己治療としてのアディクション