こころの診療所 から

宝塚市大橋クリニックの院長ブログです

多文化間精神医学会(京都)と文化結合症候群”Amok"の論文:専門家向け

2019年11月30日、12月1日に京都の龍谷大学で多文化間精神医学会が開催されます。

jstp26.jpn.org

多文化間精神医学会は色々な文化間で生じる精神医学的問題を扱っています。私自身は人類学のような面に魅かれて入会しましたが、難民問題だとか、海外の駐在員のメンタルヘルスなど話題は多岐にわたっています。

今回、学会にはプログラム委員として参加しています。学会員ではありましたが、これまであまりご縁がありませんでした。たまたま、私の”Amok"の論文に興味を持っていただき、プログラム委員として声をかけていただきました。

 

Amokというのは、専門家でもあまり耳にしない疾患だと思います。そもそもは、インド、マレーシア、インドネシアにしか見られない精神疾患で、抑うつの後に突発的な大量殺人、その後の一過性健忘を特徴とするものと定義されています。精神医学的な定義は確かにそうなのですが、実は精神医学ということばが出現したのは1800年代。しかし、Amokという言葉は1400年代からあるのです。

私はAmokという言葉の定義の変遷を1400年代から文献を調べて整理して、背景となる歴史事実と照らし合わせていきました。この地域というのは激動の地域です。部族間の争いから始まり、宗教間の争い、西洋人の流入と植民地化、第一次、第二次世界大戦を経て独立、いろいろなことに揺れ動かされてきました。

面白いことに疾患の定義も、時代によって変わっていきます。当初は部族間のヒーローを指す言葉でしたが、宗教間の争いが強くなってくると宗教によって引き起こされるものだという考えが出現し、西洋人が入ってくると、胃潰瘍だとか、アルコールだとか、アヘンだとか、裁判で裁くべきものだとか、いろいろなことがでてきます。1800年代に精神医学が出現すると、精神的な疾患だとか。さらに、精神医学のその時々の主流の考え方によって原因論も変化していきます。

まさに、Amokという言葉が時代を映し出して変わっていっているのです。そうして、Amokという言葉を使用する人の知識や背景、意図によって定義の変化が影響されているように見えます。

https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0957154X18803499?rfr_dat=cr_pub%3Dpubmed&url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori%3Arid%3Acrossref.org&journalCode=hpya

私自身は非常に面白いと思っているのですが、そんな論文の内容に興味を持ってくださって、声をかけていただいたという次第です。

今回の学会では、私自身が大学院生の時代にいろいろな海外フィールドでの調査を行ったので、フィールド調査入門と称してシンポジウムを組織することになりました。ぜひ、専門家でご興味のある方はお越しください!

ちなみに、Amokは神経難病の調査にインドネシアパプア州に行ったときに、精神科的にも調査をしたいと思って、Amokについてのインタビュー調査をしたんです。そういうきっかけで、歴史的な変遷も追ってみたという経緯でした。インタビュー調査から見える現在のAmok定義も面白いんですが、まだ論文にしていません。こちらも頑張ります。