こころの診療所 から

宝塚市大橋クリニックの院長ブログです

本の紹介: 夜と霧

ゴールデンウィークに何かしようと思っていましたが、本当に何もせずダラダラとしてしまいました。ただ、先日ご紹介したフランクルの「夜と霧」の古本が届いたので、改めて読んでみました。

読み始めてびっくり。いきなり解説から始まって、この解説が75ページもあるんです。これを読み始めると最後まで読めないなと思ったので、早速飛ばしました。さて内容です。

毎日毎日の生死が運で決まってしまうような悲惨なアウシュビッツでの生活が生々しく記録されています。様々な人間の本性を見せつけられるような気持ちになり、恐ろしさ、苦しさ、希望など私の気持ちもページをめくるたびに変化するようでした。

収容所生活だけではなくて、そこから解放された人々のその後の生活も記録されています。極度の緊張状態から解放された後にはゆがんだ権利意識や攻撃性が生じた方もいたようです。それももともと良い人だった方だったにも関わらずです。この本の最後はこのように書かれています。

解放された囚人のうち少なからざる人々が新しい自由において運命から受け取った失望は、人間としてそれをこえるのが極めて困難な体験であり、臨床心理学的にみてもそう容易に克服できないものなのである。しかしそうだからと言って、それは心理学者の勇気をはばむことには一向ならないのである。反対にそれは心理学者にとって刺激になるのである。なぜならばそれは使命的性格を持っているからである。

 かくしてやがていつか、解放された囚人各自が強制収容所のすべての体験を回顧して奇妙な印象を受ける日が来るのである。すなわち彼は収容所生活が彼に要求したものをどうして耐え抜くことができたか殆どわからないのである。そして一生の中ですべてが美しい夢のように思われる日が・・・あのかつての自由の日々が・・・存したと同様に、彼が収容所で経験したすべてが彼には一つの悪夢以上のものに思われる日もいつかくるであろう。解放され、家に帰った人々のすべてこれらの体験は、「かくも悩んだ後には、この世界の何ものも・・・神以外には・・・恐れる必要はない」という貴重な感慨によって仕上げられるのである。

苦しい現実から解放されたらすぐ気持ちがすっきりするという場合もあるでしょうが、時には、苦しい現実の中で抱いていた希望が、実際には苦しさが去っても実現しなかったとか、実際には無かったという場合もあるでしょう。そうすると、怒り、悲しみ、不安といった感情が持続するかもしれません。それでもなお、いつか、これほどまでに悩んだ後の「貴重な感慨」と著者がいう希望があることを本書は教えてくれました。

 

本書はなかなか内容が強く、写真も正直、全部見られないほどのつらさを私は感じましたので、感情が安定しないような方や繊細な方にはおすすめできません。前にご紹介した「それでも人生にイエスという」という本が良いように思いました。

 

夜と霧 新版

夜と霧 新版