今回は本の紹介です。「一日一生」酒井雄哉著。
ブログを始めた当初は、患者さんが病気に対して使える自助本や病気関係の本を紹介しようと思っていましたが、最近「それでも人生にイエスと言う」など紹介し始めてしまっています。それもよいかなと思って、あまりこだわらずにご紹介していこうと思います。
ただ、病気の本であれば、あまり個人の思想などは入ってきませんが、病気の本以外をご紹介し始めると、私の思想を反映してしまうと思います。ですので、一個人が面白いなと思った本ぐらいで見ていただけると嬉しいです。
というわけで、「一日一生」の紹介です。「それでも人生にイエスと言う」は西洋の本なのでどうしてもキリスト教的なメッセージが含まれているように感じます。「ボクはやっと認知症がわかった」という本も著者がキリスト教の方でした。そこで、バランスを取るために今回は仏教系の方の本をご紹介します。
千日回峰行というのをご存じですか?約7年かけて四万キロを歩く荒行だそうです。四万キロというと地球一周です。著者の酒井さんはこの千日回峰行を2回したお坊さんです。千日回峰行を2回した方はこの400年で3人しかおらず、酒井さんが最高齢だということ。そのすごさがわかると思います。
私は「修行」という言葉には何となくあこがれがあります。それをすれば、何か心が強くなるんじゃないかとか、新しい何かが見えてくるんじゃないかとか。でも、酒井さんはこうおっしゃいます。
「二度の千日回峰行を経てどんな変化がありましたか」とよく聞かれるけど、変わったことは何にもないんだよ。みんなが思っているような大層なもんじゃない。行が終わっても何も変わらず、ずーっと山の中を歩いているしな。「比叡山での回峰行」というものでもって、大げさに評価されちゃってるんだよ。
そうして、
みんなさ、背伸びしたくなるの、ねえ。自分の力以上のことを見せようと思って、ええかっこしようとするじゃない、だから、ちょっと足元すくわれただけでもスコーンといっちゃう。自分の身の丈に合ったことを、毎日毎日、一生懸命やることが大事なんじゃないの。人間から見た偉いこととかすごいことかなんて、仏さんから見れば何にも変わらないから。
と続きます。
全体を通じて、とてもやわらかな文章の雰囲気で、ひらがなも多くて読みやすい。酒井さんの人生を拝見しながら、とにかく、一日一日を一生懸命生きればよいというメッセージを感じました。
この本では酒井さんは過去に犯した汚点のようなものもすらすらと書かれています。自分をさらけ出して、みんなに考えを伝えようとする姿勢、なかなかできるものではありませんね。
悩んだ時には開いてみる一冊です。
余談ですがなぜこの本や前回ご紹介した「夜と霧」のような本を私が読むかというと、つらいときにどうやってつらさを乗り切ったらよいのかということに自分自身の問題としても精神科医としても興味があり、究極のつらさを乗り越えた方の体験を知りたいからなのです・・・
ちなみにこの本には「続」もあります。