こころの診療所 から

宝塚市大橋クリニックの院長ブログです

本の紹介: こうして乗り切る、切り抜ける 認知症ケア

クリニックにある本の紹介です。今回は認知症ケアの本です。

「こうして乗り切る、切り抜ける 認知症ケア」朝田隆、吉岡充、木之下徹 編著

 

こうして乗り切る、切り抜ける認知症ケア―家族とプロの介護者による究極の知恵袋

こうして乗り切る、切り抜ける認知症ケア―家族とプロの介護者による究極の知恵袋

 

 

認知症の方をサポートするための本です。この本の良いところは、色々な職種の人や家族からの生々しい工夫が書かれていることです。

認知症の方のケアの本を読んでいると、「簡単にいうけど、難しいんじゃないかな」と思うことがあります。なんだかきれいごとのような・・・

しかし、今回紹介する本は皆さん苦労しているんだなということが実感として伝わってきて、それはそれで癒しの感じがあるように思います。

徘徊で困っているという項目では、ある家族は位置を教えてくれる機械を使ったらうまくいきましたという回答が書かれている一方で、ある家族の回答は結局そういうのを使ってもうまくいかなかったので肉眼で見ていますとか。

怒りに克つ、という項目もあります。いろいろな本に、患者さんの背景を想像してみましょう、怒ってはいけないと書いてあります。ただ、実際に患者さんをサポートする方の話を聞いていると、そういう本を読むと怒ってはいけないと書いてあるのに、怒ってしまうということ話されることもよくあります。それで、自分を責めてしまって、サポートする方がうつ状態になってしまうという悲劇もあります。

思い通りにいかないときに怒りを感じるのは自然なことなのに、そこを省略して怒ってはいけないと書かれていると本当につらいものがあるように思います。本書の場合は、家族がどうやってイライラした時に対処するかいくつか紹介されています。じゃんけんをするとか、別の場所で大声をあげるとか・・・本当に皆さん大変、ということが伝わってくると思います。怒ってはいけないと簡単に書けるような問題ではないということ、自分だけがうまくできないわけではなくて、みんな苦労しているんだ、そんな簡単にうまくいくような問題ではないんだということが伝わってくれるととても役に立つように思います。

そのほか色々読んでいると面白いです。少し古い本ですが、診療でよくお勧めする本です。認知症のケアに関わる方にはぜひおすすめします。

 

多文化間精神医学会(京都)と文化結合症候群”Amok"の論文:専門家向け

2019年11月30日、12月1日に京都の龍谷大学で多文化間精神医学会が開催されます。

jstp26.jpn.org

多文化間精神医学会は色々な文化間で生じる精神医学的問題を扱っています。私自身は人類学のような面に魅かれて入会しましたが、難民問題だとか、海外の駐在員のメンタルヘルスなど話題は多岐にわたっています。

今回、学会にはプログラム委員として参加しています。学会員ではありましたが、これまであまりご縁がありませんでした。たまたま、私の”Amok"の論文に興味を持っていただき、プログラム委員として声をかけていただきました。

 

Amokというのは、専門家でもあまり耳にしない疾患だと思います。そもそもは、インド、マレーシア、インドネシアにしか見られない精神疾患で、抑うつの後に突発的な大量殺人、その後の一過性健忘を特徴とするものと定義されています。精神医学的な定義は確かにそうなのですが、実は精神医学ということばが出現したのは1800年代。しかし、Amokという言葉は1400年代からあるのです。

私はAmokという言葉の定義の変遷を1400年代から文献を調べて整理して、背景となる歴史事実と照らし合わせていきました。この地域というのは激動の地域です。部族間の争いから始まり、宗教間の争い、西洋人の流入と植民地化、第一次、第二次世界大戦を経て独立、いろいろなことに揺れ動かされてきました。

面白いことに疾患の定義も、時代によって変わっていきます。当初は部族間のヒーローを指す言葉でしたが、宗教間の争いが強くなってくると宗教によって引き起こされるものだという考えが出現し、西洋人が入ってくると、胃潰瘍だとか、アルコールだとか、アヘンだとか、裁判で裁くべきものだとか、いろいろなことがでてきます。1800年代に精神医学が出現すると、精神的な疾患だとか。さらに、精神医学のその時々の主流の考え方によって原因論も変化していきます。

まさに、Amokという言葉が時代を映し出して変わっていっているのです。そうして、Amokという言葉を使用する人の知識や背景、意図によって定義の変化が影響されているように見えます。

https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0957154X18803499?rfr_dat=cr_pub%3Dpubmed&url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori%3Arid%3Acrossref.org&journalCode=hpya

私自身は非常に面白いと思っているのですが、そんな論文の内容に興味を持ってくださって、声をかけていただいたという次第です。

今回の学会では、私自身が大学院生の時代にいろいろな海外フィールドでの調査を行ったので、フィールド調査入門と称してシンポジウムを組織することになりました。ぜひ、専門家でご興味のある方はお越しください!

ちなみに、Amokは神経難病の調査にインドネシアパプア州に行ったときに、精神科的にも調査をしたいと思って、Amokについてのインタビュー調査をしたんです。そういうきっかけで、歴史的な変遷も追ってみたという経緯でした。インタビュー調査から見える現在のAmok定義も面白いんですが、まだ論文にしていません。こちらも頑張ります。

 

 

昨日より精神保健福祉士が着任しました

患者さんの生活や就労支援、地域との連携をより強化するために、昨日から精神保健福祉士が着任しました。

以前の職場で一緒に働いていたので気心がしれていて、大変しっかり仕事をしてくれるので心強いです。

昨日は色々な機関へのあいさつ回りにもいきました。私もいつかご挨拶したいと思っていた、市の障害福祉課や社会福祉協議会にも顔をだしました。就業・生活支援センターには何度か顔をだしているので、だんだんなじんできました。

当院の近くの地域活動支援センター和やフラットにもご挨拶に伺いました。

今後、いろいろなところにご挨拶などうかがうと思います。

着任した精神保健福祉士公認心理師の資格も取得しており、かれこれ7年ほどフォーカシングというカウンセリングも学んでいます。こちらも期待したいと思っています。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

本の紹介: CRAFT 依存症家族のための対応ハンドブック

本日は本の紹介です。「CRAFT 依存症家族のための対応ハンドブック」

私がCRAFT(=クラフト)のことを知ったのは、ひきこもりの方に対する家族の対応に悩んでいた時のことでした。でも調べると、そもそもは依存症家族のために作られたプログラムということ、読んでみなければということで購入しました。

 

要するに、なかなか治療につながらない依存症の患者さんに家族がどうコミュニケーションをしたらよいのか、というハンドブックです。脅したり、愚痴をいったり、お願いしたりする代わりに、もっとお互いに気持ちの良い、効果的なコミュニケーションをするにはどうしたらよいかということが書かれています。

家族だけではなく医療関係者や支援者にも大変参考になると思います。

ただ、180ページぐらいあって、びっちり文字なので読むのがなかなか大変かもしれません。繰り返し繰り返し読んで、実際にやってみて身についていくもののように思います。こういうプログラムをサポートしてくれる心理士さんなどいるといいでしょうね。一人ではなかなか続かないかもしれません。

勉強になる本です。

抜粋です

小言、懇願、脅しに代わるプログラムとは、二つの目標と、核をなす一連の手続きからなる、ちょっとした行動の変化を起こすものです。ここで言う目標とは、(1)あなたの生活の質を改善する、(2)あなたの大切な人に、飲酒を続けるよりも断酒する方が魅力的であると理解してもらうことになります。

 

要するに、あなたの大切な人にアルコール乱用をやめさせるだけでなく、相手が断酒するかどうかにかかわらず、あなた自身の生活に健全さを取り戻すことが重要なのです。そう、あなたの大切な人が飲んでいる/飲んでいない、機嫌がよい/悪い、家にいる/いない・・・こういったことに振り回されることはやめにしましょう。 

 

CRAFT 依存症者家族のための対応ハンドブック

CRAFT 依存症者家族のための対応ハンドブック

  • 作者: ロバート・メイヤーズ,ブレンダ・ウォルフ,松本俊彦,吉田精次,渋谷繭子
  • 出版社/メーカー: 金剛出版
  • 発売日: 2013/08/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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認知行動療法事典の一項目を執筆しました

8月はカルテの入れ替えなどあり、なかなかブログを更新できませんでした。おかげさまで色々スムーズに過ぎております。

さて、本日は私が一項目を執筆した本のご紹介です。あんまりにも高いので私も買えないですが・・・専門的すぎて一般の方にはお勧めではないです。

 

私自身は心理療法では認知行動療法を専門にしています。まだ当院ではしっかりとしたカウンセリングの枠を作ることができていませんが、いずれは枠を作りたいと思っています。そんな認知行動療法がらみのご縁で、事典の一部を執筆しました。

 

本もそうですが、人に伝えるということは、自分にも勉強になります。発表などは正直できれば避けたいのですが、それでも頑張ると確実に自分の知識が増えます。発表を終えると、あの時ああしていればよかったなど思うのですが、発表がうまくいかずとも、勉強したことはプラスなので良しとしています。

これからも発表や本で世の中の人の役に立ちながら、自分の知識を広げていきたいと思います。

 

認知行動療法事典

認知行動療法事典

 

 

本の紹介:自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント

今日はクリニックにある本の紹介です。以前講演会に行った、松本俊彦先生の本です。松本先生にクリニックに患者さん向けに置く本でおすすめを聞いたところ、この本を紹介してくださいましたので購入してみました。

「自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント」(松本俊彦著)

 

この本にはなぜ自傷をせずにはいられなくなるのかという理由や対処法が紹介されています。物理的に自分に傷をつける自傷だけではなくて、依存や過食、また自分を傷つける関係性も紹介されているので、内容は幅広いです。

対処方法もいろいろと紹介されています。短期的には自傷行為の代わりにすることや、気持ちを落ち着ける方法などです。長期的にはどんなふうに現在の生活を見直したらよいかということも書かれています。参考になることも多いのではないでしょうか。

周囲の方へのアドバイスも書かれています。もし身近にそういう方がいるのならば、読んでみるとそういうことなのかな・・・と少し見方が変わるかもしれません。

本書の最後に、いろいろな人やアイディア、支援機関のいいとこどりが勧められています。一つのものに頼り切ってしまうとどうしても、その一つのものに影響されやすくなります。人間もいろいろな面があり、良い人でもどこかしら悪いところはあるものです。そういうバランス感覚を大事にしているというのも本書の特徴でしょうか。

270ページぐらいある、しっかりした本です。何か良いヒントが得られるとよいなと思います。

 

自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント
 

 

松本俊彦先生の講演を聞きに行きました+本の紹介

先日、松本俊彦先生の講演を聞きに行きました。

松本先生は国立精神・神経センター精神保健研究所薬物依存研究部の部長先生です。精神科分野ではとても有名な方で、マスコミにもよく出ています。

はじめて先生のお話を伺いましたが、とても素晴らしい先生でした。人柄といい、臨床の実践としい、研究といい、一流の方でした。お話をうかがうだけでモチベーションが上がりました。

印象深かったのは、依存症の問題は、薬物それ自体よりも、依存症をもった方が孤立してしまうことだ、ということです。松本先生はSMAAPという集団プログラムを作り、各地の精神保健センターに導入されています。

ただ、この孤立という話は依存症だけではなくて、苦悩一般に言えることかもしれません。辛さが人に言えない、わかってもらえない、言う人がいない、というのは何よりも辛いことのように思います。

そういう意味では、私たちの診療は悩みを伺い、理解して、場合によっては人や場所、物とのつながりを回復するお手伝いをするのが、根本的な目標なのかもしれません。

ただ、聞き手によっては、問題が大きな場合や対処がわからない場合には、不安や恐怖思い通りにならない感じを感じて、逆に非難や怒りを返してしまう人もいます。これもまたよくあることで、私たちは、こういった色々な場面での人の反応についてお伝えしながら物事を冷静にとらえて現実の妥当な解釈を一緒に考えていくことも大事なのでしょう。

 

さて、そのようなわけで、松本先生の本を何冊か読んでみようと思いました。

まずは「人はなぜ依存症になるのか」という本を読みました。ちょっと文字が多く専門家向けかもしれません。2008年に出版された英語の本を松本先生が翻訳されたものです。

主のメッセージは、依存症に至った背景をよく聞き、理解せよということ、またその依存によって何を変えようとしているのかを問うということだと思います。本の中には、依存によって怒りを鎮めようとしたり、対人関係を変えようとしたりなどして依存が続いてしまっているという例がありました。依存に代わる対処法を見つけていくということが大切で、そのためにはそこに至った背景を知らなければならないということです。

本の最終章では自己治療仮説にもとづいた治療と回復の指針という項目があり、印象に残った部分を抜粋します。

AAミーティングにおける「言いっ放し、聞きっ放し」は、他のメンバーの話を通じて、依存症の基底にある自己破壊的な性格特性が、他のメンバーの話を通じて、他のメンバーだけでなく、自らの内にもある、という事実を認めるのに役立つ。そして、そのような体験を重ねる中で、メンバーたちは、人生における最悪の運命とは、「苦しみを抱えることではなく、一人で苦しむことである」ということを理解するようになるのである。その結果、「人がどうなろうと関係ない、誰も自分に構わないでほしい」という防御的な自己充足が「人は一人では生きていけない、人は相互に助け合わねばならない」という相互扶助の認識へと変化していく。その変化は、ミーティングに参加するようになってからの時間経過にしたがって、自己陶酔から利他主義、あるいは他者への思いやりへと、段階的に生じていく。つまり、AAは、「自分の人生を管理するのも、自分自身の世話をするのも自分だけでやるのが最善である」という考えに異を唱えているわけである。

 (「人はなぜ依存症になるのか 自己治療としてのアディクション」より)

 ちなみにこのAAというのはアルコホーリックスアノニマスというアルコール依存症を抱える方のための自助会です。日本にはこの団体のほか、断酒会というものもあります。

aajapan.org

 

(下記はちょっと専門家向け。また一般の方向けの本も探してみますね)

人はなぜ依存症になるのか 自己治療としてのアディクション

人はなぜ依存症になるのか 自己治療としてのアディクション