こころの診療所 から

宝塚市大橋クリニックの院長ブログです

本の紹介:自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント

今日はクリニックにある本の紹介です。以前講演会に行った、松本俊彦先生の本です。松本先生にクリニックに患者さん向けに置く本でおすすめを聞いたところ、この本を紹介してくださいましたので購入してみました。

「自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント」(松本俊彦著)

 

この本にはなぜ自傷をせずにはいられなくなるのかという理由や対処法が紹介されています。物理的に自分に傷をつける自傷だけではなくて、依存や過食、また自分を傷つける関係性も紹介されているので、内容は幅広いです。

対処方法もいろいろと紹介されています。短期的には自傷行為の代わりにすることや、気持ちを落ち着ける方法などです。長期的にはどんなふうに現在の生活を見直したらよいかということも書かれています。参考になることも多いのではないでしょうか。

周囲の方へのアドバイスも書かれています。もし身近にそういう方がいるのならば、読んでみるとそういうことなのかな・・・と少し見方が変わるかもしれません。

本書の最後に、いろいろな人やアイディア、支援機関のいいとこどりが勧められています。一つのものに頼り切ってしまうとどうしても、その一つのものに影響されやすくなります。人間もいろいろな面があり、良い人でもどこかしら悪いところはあるものです。そういうバランス感覚を大事にしているというのも本書の特徴でしょうか。

270ページぐらいある、しっかりした本です。何か良いヒントが得られるとよいなと思います。

 

自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント
 

 

松本俊彦先生の講演を聞きに行きました+本の紹介

先日、松本俊彦先生の講演を聞きに行きました。

松本先生は国立精神・神経センター精神保健研究所薬物依存研究部の部長先生です。精神科分野ではとても有名な方で、マスコミにもよく出ています。

はじめて先生のお話を伺いましたが、とても素晴らしい先生でした。人柄といい、臨床の実践としい、研究といい、一流の方でした。お話をうかがうだけでモチベーションが上がりました。

印象深かったのは、依存症の問題は、薬物それ自体よりも、依存症をもった方が孤立してしまうことだ、ということです。松本先生はSMAAPという集団プログラムを作り、各地の精神保健センターに導入されています。

ただ、この孤立という話は依存症だけではなくて、苦悩一般に言えることかもしれません。辛さが人に言えない、わかってもらえない、言う人がいない、というのは何よりも辛いことのように思います。

そういう意味では、私たちの診療は悩みを伺い、理解して、場合によっては人や場所、物とのつながりを回復するお手伝いをするのが、根本的な目標なのかもしれません。

ただ、聞き手によっては、問題が大きな場合や対処がわからない場合には、不安や恐怖思い通りにならない感じを感じて、逆に非難や怒りを返してしまう人もいます。これもまたよくあることで、私たちは、こういった色々な場面での人の反応についてお伝えしながら物事を冷静にとらえて現実の妥当な解釈を一緒に考えていくことも大事なのでしょう。

 

さて、そのようなわけで、松本先生の本を何冊か読んでみようと思いました。

まずは「人はなぜ依存症になるのか」という本を読みました。ちょっと文字が多く専門家向けかもしれません。2008年に出版された英語の本を松本先生が翻訳されたものです。

主のメッセージは、依存症に至った背景をよく聞き、理解せよということ、またその依存によって何を変えようとしているのかを問うということだと思います。本の中には、依存によって怒りを鎮めようとしたり、対人関係を変えようとしたりなどして依存が続いてしまっているという例がありました。依存に代わる対処法を見つけていくということが大切で、そのためにはそこに至った背景を知らなければならないということです。

本の最終章では自己治療仮説にもとづいた治療と回復の指針という項目があり、印象に残った部分を抜粋します。

AAミーティングにおける「言いっ放し、聞きっ放し」は、他のメンバーの話を通じて、依存症の基底にある自己破壊的な性格特性が、他のメンバーの話を通じて、他のメンバーだけでなく、自らの内にもある、という事実を認めるのに役立つ。そして、そのような体験を重ねる中で、メンバーたちは、人生における最悪の運命とは、「苦しみを抱えることではなく、一人で苦しむことである」ということを理解するようになるのである。その結果、「人がどうなろうと関係ない、誰も自分に構わないでほしい」という防御的な自己充足が「人は一人では生きていけない、人は相互に助け合わねばならない」という相互扶助の認識へと変化していく。その変化は、ミーティングに参加するようになってからの時間経過にしたがって、自己陶酔から利他主義、あるいは他者への思いやりへと、段階的に生じていく。つまり、AAは、「自分の人生を管理するのも、自分自身の世話をするのも自分だけでやるのが最善である」という考えに異を唱えているわけである。

 (「人はなぜ依存症になるのか 自己治療としてのアディクション」より)

 ちなみにこのAAというのはアルコホーリックスアノニマスというアルコール依存症を抱える方のための自助会です。日本にはこの団体のほか、断酒会というものもあります。

aajapan.org

 

(下記はちょっと専門家向け。また一般の方向けの本も探してみますね)

人はなぜ依存症になるのか 自己治療としてのアディクション

人はなぜ依存症になるのか 自己治療としてのアディクション

 

 

精神保健福祉士とは?

10月から当院に精神保健福祉士がやってきます。以前の職場で一緒に働いていた頼りがいのある専門家です。

精神保健福祉士という専門家は、あまり聞きなれないかもしれません。ただ、私は精神科・心療内科にとっては、なくてはならない存在と思っています。

「患者さんの生活をサポートする」というのが、精神保健福祉士の仕事の中心です。

医者が診察室で話を聞いて、投薬することも大切な治療ですが、それだけで状態が良くならない方もいます。生活の中に問題があって、なかなか一人では解決できない場合があるからです。そんな時に、いろいろな制度を紹介して、実際に手続きのサポートをしてくれたり、支援機関とつないだり、何か解決がないか一緒に探したりするのが精神保健福祉士です。

www.japsw.or.jp

極端な話をすれば、障害が消えなくても生活を順調に送る、ということも一つの中間目標にはなると思っています。そういう意味では、生活のサポートは治療と同じように(それ以上に?)重要と考えています。

当院ではそれを目指して、往診(訪問診療)をしたり、地域資源とのつながりを深くして患者さんの生活に近い場所でお役に立つ工夫をこれからもしていきたいと思っています。

今回来てくれる精神保健福祉士は前勤務地でも積極的にクリニックの外で患者さんとかかわってくれていた人です。一緒にかかわった患者さんの中には、ひきこもっていたけれど、投薬や一緒に散歩を継続して外出への不安を和らげながら就労につなぐことができた人などもいます。

彼はその後公認心理師の資格もとって心理面でも実践・勉強をしています。少し先になりますが、私も楽しみにしています。

知人の新規開業したクリニックに見学に行きました

先日、知人が開業したということでクリニックの見学に伺いました。

新規開業ということで、とってもきれいで、広かったです。児童・思春期の精神科の先生なので、お子さんが遊べるスペースがあるなど、空間がうらやましかったです・・・

やっぱり環境は重要ですね。当院の環境も手を付けられるところから変えていきたいです。診察室のレイアウトや雰囲気は少し変えてみました。木や自然を基調にしたつもりではありますが・・・

 

人間には五感がありますね。見る、聞く、味わう、嗅ぐ、触る。それぞれについて工夫ができたらいいなと思います。これは、実は自分の人生についても大事かもしれません。人生大変なことは多いですが、そんな中でも見ること、聞くこと、味わうこと、嗅ぐこと、触ることの中で少しでも心地よさを感じる瞬間があれば、もしかすると大変さを和らげてくれるヒントが見つかるかもしれません。

 

当院のスペースはすごく広いというわけではありませんが、私の中では地域自体を仕事場スペースとして考えていきたいと思っています。家、地域の資源、店、いろいろな場所を有効に活用していけたらよいですね。他をうらやましいと言っているばかりではなく、しっかり工夫をする。それが当院の目標です。

8月からは電子カルテシステムを新しくします。

10月からは公認心理士の資格を持った精神保健福祉士に来てもらう予定です。幅広くお役に立つことを目指しています。

精神保健福祉士という資格も耳慣れない方もいるかもしれません。また改めてご説明・ご紹介しようと思います。

 

オキシトシンの話を聞いてきました(研究段階のお話)

昨日は阪神精神科医会学術講演会の座長をしてきました。座長といっても、お話をほんの少しまとめるだけの役ですが・・・

浜松医科大学の山末先生が、オキシトシン自閉症スペクトラム障害のお話をして下りましたが、非常に勉強になりました。オキシトシンによりアイコンタクトや表情の認識の仕方が変わるということ。しかし、一方で何回もオキシトシンを投与するとその効果がなくなってしまうという現状の研究のお話です。

私自身は社会性というのは学習、特に文化の影響を受けるものと考えていましたが、物質でこのような社会性が変化するということは、社会性とはそもそも体に組み込まれたものと考えても良いのかもしれません。まだその考え方には違和感がありますが、山末先生はそのようにお考えでした。なかなか衝撃的です!

遺伝子レベルから、脳の画像レベル、心理課題を使った行動レベルの研究を綿密に積み重ねていらっしゃり、研究の醍醐味をみた気持ちでした。

オキシトシンは今後非常に面白い物質のように思えました。しかし、まだ治験を経ていないので、我々の臨床にとどくまでには時間がかかりそうです。世の中には、そのようなもどかしさを逆手にとって、効果が確定していないものを販売する危険な業者もいますから、くれぐれもそのような業者には引っかからないようにしてください。

 

本の紹介: あなたがあなたであるために 自分らしく生きるためのアスペルガー症候群ガイド

本の紹介です。

「あなたがあなたであるために 自分らしく生きるためのアスペルガー症候群ガイド」吉田友子著

 

先日ご紹介した本(『高機能自閉症アスペルガー症候群 「その子らしさ」を生かす子育て 改訂版』)がよかったので、同じ著者の本を読んでみることにしました。今回の本は、ご本人に向けた本です。

先日の本はちょっと量が多かったのですが、今回の本は程よい量で障害の特徴や工夫にフォーカスしています。それぞれの説明は簡潔ですし、日常で困る場面の対処は具体的です。

例えば、趣味に関する5つのトラブルとして、1.「いつもその話ばっかり」とうんざりされる、2.「そろそろ止めなくちゃ」と分かっているんだけど止められない、3.趣味にばかり時間をとられて宿題が終わらない、4.趣味にお金を使いすぎる、5.「自分の世界にこもっていないで」「もっと友達を作りなさい」と言われてしまう、自分でも迷う。

というトピックを取り上げて、どうしたらよいか、どう考えたらよいか詳しく説明してくれています。思い当たるところがあったら、参考になる意見が乗っているかもしれません。

 

良いのはやっぱり、読みやすさですね。本の厚さも薄いですし、文字もまずまず大きいです。ご本人向けの本ですが、周りの方も読んでみて、よかったらさらに詳しい先日ご紹介した本を読むというのもよいでしょう。

 

この著者の他のもう一冊の本も購入したのでまた読んでみようと思っています。

 

あなたがあなたであるために―自分らしく生きるためのアスペルガー症候群ガイド

あなたがあなたであるために―自分らしく生きるためのアスペルガー症候群ガイド

 

 

 

 

 

スマートフォンで認知行動療法を行う関連研究の論文が出版されました

数年前に、スマートフォン認知行動療法をほぼ自動で行うアプリ開発・研究のお手伝いをしていました。

http://ebmh.med.kyoto-u.ac.jp/flatt/committee.html

認知行動療法というのはカウンセリングの方法の一つです。認知=考え方の幅を広げたり、バランスをとる方法、行動=心地よい活動を増やしたり、現実的な問題解決を計画するという方法、という大きな二つの方法で気持ちの改善を図っていきます。

ぱっと聞くと常識的で、カウンセリングといえるほどのもの?と思われる方もいるかもしれません。しかし、案外、ご自身の考え方にどんな癖があって、それがいつごろから作られたものかなど考えていくなどは、機会をもって見つめないとなかなか気づけないことが多いものです。行動も普段避けていることも、段階にわけて実行してみると意外な発見があることもあります。

 

ちなみに、スマートフォンアプリの研究の結果は大変良いものでした。

http://ebmh.med.kyoto-u.ac.jp/flatt/index.html

 認知行動療法を日常的に実施できる医療機関は少ないので、こういったアプリを使って診療の補助とする方向性は重要だと思います。今後、保険適用されたら多くの方のお役に立ちそうです。

 

この研究のデータを使って小さな研究をしていましたが、その私の研究が論文として出版されました。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/pcn.12849?af=R

 

医者として知識や技術を患者さんや社会に届けることも重要な役割と考えていますが、新しい発見や知識を世の中に示していくことも体力と精神力が続く限り継続していこうと思っています。