こころの診療所 から

宝塚市大橋クリニックの院長ブログです

本の紹介: ひきこもり脱出支援マニュアル

ひきこもり脱出支援マニュアル 田村毅著を紹介します。

以前、斎藤環先生のひきこもりの本をご紹介しましたが、本書もよく似た構成の本です。ご家族からの質問に著者が答えるような形です。ただ、本書の場合は家族関係、家族の姿、主に親子がどう取り組んでいくかが暖かい雰囲気で語られます。なぜかわかりませんが、斎藤環先生の本よりも心の深いところに伝わってくるような感じがありました。

実際にカウンセリングの内容を紹介して、このような場面ではこのように話をされるのかなという著者の姿勢が伝わってくるようです。あとがきには、著者のこれまでの家族関係が紹介されていて、著者との距離感が短くなるような気がしました。

読むようにスムーズにはいかないかもしれませんが、自身の姿勢を振り返って、少しずつ対応を考えていくこととで変化が起こるかもと期待感を持たせてくれる本です。

私自身、家族療法という治療をしっかりと勉強したことはありませんが、本書を数年前に読んで、機会があれば勉強したいと思っています。ひきこもりの子供を持つ方ではなくても、一度ご自身の親子関係を見直す意味でもお勧めの本です。

 

ひきこもり脱出支援マニュアル  家族で取り組める実例と解説

ひきこもり脱出支援マニュアル 家族で取り組める実例と解説

 

 

地域の「医療と介護の連携」研修会でお話しました

先日、クリニックの所在地である小林地域の「医療と介護の連携」研修会で認知症についてのお話をしてきました。医療関係者、ケアマネ、介護士訪問看護ステーションや高齢者施設の方などが集まります。年に1度ある会で、昨年も参加しましたが、今年は発表する側です。昨年もいろいろな方と知り合うことができて、とても有意義でした。

認知症のお話といっても、細かな病気の話よりは、介護する方々にご自身の体も大事にしてくださいというお話をしてきました。「介護は大変」と皆さん口々におっしゃったり、イメージはあるかと思いますが、実際どれだけ大変なのか具体的な数字を紹介しました。

オランダのチームが2015年にこんな研究を発表しました。認知症の患者さんの配偶者(181名)を2年間追跡して、うつ病や不安などの病気になってしまわないかどうか、という研究です。

www.sciencedirect.com

どのくらいの方が病気になってしまったと思われますか?

なんと60%の方がうつ病や不安の病気になってしまったということです。最初は皆さんそういう病気を持っていなかったのにも関わらずです。5人中3人と考えると多くないでしょうか?

そのような大変な仕事をされているんだということをわかっていただき、ぜひ、ご自身をねぎらっていただけらと思ってお伝えしました。

配偶者を対象にした研究ですが、介護の専門家も大変です。特にご家族と患者さんとの間に入る場合もあり、すっきり解決しないことも多い世界です。まずは、ご自身の体調を保って、それから支援をしていくこと、そのコツについてお話してきました。

とはいえ、これは他人事ではなく、自分自身もしっかり睡眠をとって健康を保たなければよい医療はできません。自身の養生も心掛けなければと思いながらの講演でした・・・

 

f:id:ohashiclinic:20200219152302j:plain

 

 

 

第7回 障碍者雇用啓発セミナー 精神障碍者がホームヘルパー ~社会適応訓練から雇用へ~ を聞いて

今回は当院精神保健福祉士木村のレポートです。

 

 兵庫県姫路市香寺町にある有限会社サポートセンターれいめい代表取締役 野村浩之さんとピアヘルパー(障害を持ちながらヘルパーをされている方)の2名による体験を聞いてきました。

 何が精神障碍の方を雇うきっかけだったのかという話から始まりました。きっかけは、平成16年9月からヘルパー派遣事業を開始されていた時に、ホームヘルパーの中に自分の障害を明かさないで仕事をしている人がいたことだったそうです。丁寧に仕事をする方だったこともあり、こんな人こそ雇いたいと思ってハローワークや保健所に紹介をお願いして回ったそうです。翌年の平成17年から社会適応訓練協力事業所として訓練生の受け入れを開始され、現在まで総数15名の訓練生の受け入れ、そのうち10名が(自社5名・他社5名)就職されたそうです。

 当時は周囲の理解が寛容でなく、色々な批判も受けたそうです。しかし、最近では、皆で頑張ってきたこともあり、見直してもらえるようになったと話されていました。

 働いておられる方も、病気の発症を機に絶望し、夢や希望を持たない生活を送っておられましたが、もう一度働きたいという思いを支えにしていたそうです。今でこそ明るく話されていましたが、御自身の成長と共に周りの理解やサポートを得ていく過程は、当時は苦労や苦しみも相当なものだったのだろうと想像します。

 野村さんは「就労支援ってなんだ?まずは立ち上がる勇気を持ってもらうことが一番と思って、話し合ってきたし、思いを知ろうと努力した」と仰ってました。

 就労している二人の方も、「失敗しても怒られない。失敗から学ぶ機会をもらえた。前向きに失敗できた」と応じられていました。そして、「利用者の方にも甘えることで、利用者の人も役に立てると喜ばれたことが、自分が変わるきっかけだった。真剣に取り組めば出来ないことはない。続けていくうちに出来るようになってしまった」と笑いながら話をされていました。肩ひじ張るのではない、自然な自信を感じました。

 凄いことですよね。立ち上がるといっても、どんなに自分一人で頑張ったって成り立たない。他者と関わり、他者から受け止められ、受け止められたことを受け止め、相互に影響しあうことで成り立つのだと思いました。

 暖かい夢のある話一方で、仕事という枠を超えた支援をされていて、凄いなと、圧倒されていました。

 最後にいつくかの名言を添えてセミナーは終えましたが、そのうち1つ2つを書き残してこの文章も締めたいと思います。

・神は私たちに二つの手を与えた。一つは受け取る手。一つは与える手

(Bグレアム1918~)

・私にとって大切なのは、私が持っているものであって、私が失ったものではない!

パラリンピック走り幅跳び 日本代表 佐藤真海

・障碍のある人にやさしい街は、全ての人にやさしい街。障碍者の働く会社は、全ての人に働きやすい会社。

本の紹介: 「ひきこもり」救出マニュアル 実践編

著者の斎藤環さんは「ひきこもり」を注目させた最初の人と言ってよいでしょう。実臨床で多くのひきこもりの方の対応に当たってこられたのだと思います。家族が疑問に持ちそうな事柄について丁寧に答えるという形式の本です。

 

非常に参考になりますが、一方でこの方法が絶対的というわけでもないので、やってみたのに結果が違っても気落ちすることなく、色々な方法を試していかなければならないかもしれません。

 

注意すべきはパソコンやインターネットの項目だと思います。当時はパソコンの使用について非常に肯定的に書かれていますが、最近はインターネット依存の問題もあります。実際にひきこもりの方の中にはインターネット依存の方もいらっしゃって、単にずっとパソコンに向き合っているだけではなく、ゲームの結果に非常に感情が左右されて時に物や人に当たるというケースも経験しました。

 

しかし、それを差し引いてもとても参考になる本だと思います。現在では本書以外にもいろいろなひきこもり関連の本が出版されているので、またこのブログでも紹介していきたいと思います。

 

「ひきこもり」救出マニュアル〈実践編〉 (ちくま文庫)

「ひきこもり」救出マニュアル〈実践編〉 (ちくま文庫)

 

宝塚市 思春期ひろば ルート~みちの途中~

木村精神保健福祉士・認定心理師からの見学報告です

 

宝塚社会福祉協議会さんが運営されている宝塚市内に3か所ある思春期ひろばの一つ、ルートに行ってきました。

www.city.takarazuka.hyogo.jp


ルートさんは公園の一角にコンテナハウスが居場所になっているので、見つけるまでにちょっと苦戦しましたが、到着後は、社会福祉協議会の専属スタッフさんボランティアさんが温かく迎えてくださいました。

f:id:ohashiclinic:20200205095018j:plain


今回は6名の利用者の皆さんと畑で大根抜きと販売を体験。
腰を入れて抜かないと、なかなか抜けないのですが、抜けると嬉しいもので、17本の大根を一気に抜いてしまい、さっそく店頭?で販売を始めたところ、車で買いに来られた気風の良い方が「10本買うわ」と買って行かれました。

f:id:ohashiclinic:20200205094637j:plain


いやぁ、初めてきたけれど、大根抜いて、それが売れて、皆で喜べたので、一気に仲良くなれた感じがして嬉しかったです。
ルートさんでは、畑仕事は毎回ではなく、作業があるときに行うそうなので、だいたいはゆったりと楽しくおしゃべりやゲームをして過ごされるそうです。

また、ルートさんの他にも「わ」と「きずな」という居場所もあって、場所の広さであったり、男性と女性の比率が違っていたりしますが、雰囲気に個性を感じつつも、どちらも楽しく過ごしやすさを感じました。

来られている方々は皆それぞれ個性や悩みもあるのですが、人との関わりそのものに癒されたり、刺激されたりしている中に入らせてもらうと、居場所のありがたさや大事さを改めて感じることが出来ました。
居場所では、悩みを相談することが主な目的ではなく、居場所に集うこと。そして、そこから派生する一つ一つのことに丁寧に付き合ってくれるスタッフやボランティアの方々、メンバーさんが居ることで生きるエネルギーを膨らませていっている印象を受けました。

毎回、僕もしっかり癒されて、元気をもらっているので、さらに仕事を頑張って、少しでも困っている人の力になれる支援者を目指していこう!と思わせてくれる場所です。
人が居るって、本当にありがたいことですね。

 

f:id:ohashiclinic:20200205094831j:plain




 

 

 

本の紹介: ADHDのペアレントトレーニング (今井注: 全然ADHDに限定された話ではないです!!)

今日は本の紹介です。「読んで学べるADHDのペアレントレーニング むずかしい子にやさしい子育て」です。

この本は非常に残念な点があります。それは題名です。題名を見るとADHDを持つ子供の親のための本と思ってしまいます。しかも、”ペアレントレーニング”という言葉が良くわからないという方もいるように思います。

内容はとても良い本なのに、一部の人の手にしか取られないことはとても残念です。

 

どのような内容かというと、問題を起こす子供について、どうやって親が対応したらよいかという本です。といっても、内容はADHDの子どもに限られているわけでは全くありません。本の中にはADHDという言葉すら出てきません。

要はよい行動はほめて、悪い行動は無視するというのが基本ですが、実はそれが非常に難しいですよね。ステップバイステップで細かく作業をしながら身に着けることができます。

少し厚めに見える本ですが、言葉は読みやすくて、そんなに時間かからず読むことができます。当院の患者さんの多くは大人の方ですが、時々お子さんの対応に困っている方もいらっしゃいます。そんな方に今後お勧めしてもよいかな思いました。

私自身、以前に不登校の子どもを持つ親のための本を翻訳したことがありますが、本書の内容とずいぶんオーバーラップしていて、やはり、この方法は確立された方法なのだと改めて確認できてよかったです。

 

 

 

不登校の子どもに親ができること: 4つのタイプ別対処法
 

2020年もどうぞよろしくお願い申し上げます 本棚をつくりました!

本日より当院の仕事始めです。

昨年同様に自分や自分の家族が受けたい医療を目指して研鑽していこうと思います。
また、引き続き地域のいろいろな機関との連携や訪問を通じて、医療を必要としている方に医療を届けられるように工夫を重ねていきます。

しっかりとした方法に基づいたカウンセリングも強化できたらと思います。
医師、精神保健福祉士、看護師、事務のチームワークで健康第一でまた1年頑張ります。

 

年末年始はクリニックの本棚を日曜大工で作ってみました。上下を間違って作ったりして情けなかったですが、昨日設置しました。一気に本を置けるスペースが広がりました。診察だけでは足りない情報提供を、書籍の紹介を通じて行っていきます。

f:id:ohashiclinic:20200106095632j:plain

 

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。