こころの診療所 から

宝塚市大橋クリニックの院長ブログです

杖やすめ

人間には五感(見る、聞く、嗅ぐ、触る、味わう)があるのは言うまでもないですが、日常生活を送っていると、視覚だけに偏ってしまったりして、他の感覚を忘れてしまうことがあります。

旅にでたり環境が変わったりすると、急に香りを感じたり、心地よい感触を思いだしたりした・・・などなど、という経験をお持ちの方も多いのではないかと思います。
普段目を向けていない感覚がふと生き返ると、新しい発見や、視野やこころが広がっていく感覚を持つことができるかもしれません。

当院でも環境面で何か良いことができないかなと考えています。そんなことを考えて過ごしていると、診察室に杖をお持ちの方がちらほらいらっしゃいました。

診察室の壁にバランスよく立てかけるのに一苦労されているのをみて、「杖やすめ」というものをつけました。受付にもつけました。五感を活性化というわけではないですが・・・。

少しずつですが、何か環境面でよいものがあれば取り入れていこうと思っています。

 

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本の紹介: 自分でできる「不眠」克服ワークブック

今日はクリニックの本棚の本の紹介です。『自分でできる「不眠」克服ワークブック」渡辺範雄著、です。

渡辺先生は私が客員研究員として時々伺っている京都大学医学研究科健康増進・行動学分野の准教授です。不眠についての認知行動療法ロンドン大学留学中に学んだと伺っています。気さくで非常に頭の良い先輩の先生です(と私が言うのは失礼かもしれませんが)。

精神科医として毎日必ず出会うのが不眠です。短時間の外来診療ではどうしても投薬に頼りがちになりますが、この本は薬を使わずに不眠を克服していこうという本です。

4週間で方法を身に着けて、次の4週間継続する、という方法です。

健康な睡眠のための10か条、睡眠日誌の付け方など、皆様にとっておそらく今まで見たことがない知識や工夫が書かれてあることと思います。

来年は渡辺先生に兵庫県内で睡眠の認知行動療法についての研修をお願いして(といっても専門家向けですが)、当院でも木村を中心にしっかりした方法で実施できるように準備しようと思っています。

 

自分でできる「不眠」克服ワークブック:短期睡眠行動療法自習帳

自分でできる「不眠」克服ワークブック:短期睡眠行動療法自習帳

 

心療内科学会シンポジウムでの発表が掲載されました

昨年12月に恩師に声をかけていただき、札幌で行われた心療内科学会に参加しました。『在宅医療における心療内科的課題』というシンポジウムで4人のシンポジストの一人としての参加です。「精神科訪問診療の実際ー私の経験より」という題名で発表しました。

 

医師は私のほかにもうお一人でしたが、ちょうど私が学生時代に見学に伺った診療所の方で見学風景を懐かしく思い出しました。もう一人は看護師さん、あと一人はケースワーカーの方。それぞれの方のお話が勉強になりました。

私はもっぱら精神科についての訪問診療を行っておりますが、内科的な訪問診療でも難しい局面になると、共通した問題があるようでした。慢性疾患や長く付き合わなくてはならない病気に対しては、医学の限界があります。どう病気に対処するのか、どう生きていくかは患者さんの人生観がありますし、一緒に暮らしている家族の考えもあります。

医療・介護スタッフでも医師、看護師、ケースワーカー、薬剤師、心理士などなどたくさんの職種があり、それぞれに人生観やそれぞれの職種からの意見があります。こうした意見の違いをどうするのか?そのあたりが、共通する難しさのように思いました。

しかし一方で、違いがあるので、色々な方の人生から学ぶところも多いし、精神科医としては患者さんの背景の多様さを改めて自分の中に蓄積する機会にもなります。もちろん、職業人としてだけではなく、人間として自分の人生を見つめることにもなります。

 

私の発表では、河合隼雄先生の”中空構造”の理論やLumbertという人の心理療法の効果についての論文を紹介しながら自分の考えを述べました。

中空構造日本の深層 (中公文庫)

中空構造日本の深層 (中公文庫)

 

 

Psychotherapy Relationships That Work: Evidence-Based Responsiveness

Psychotherapy Relationships That Work: Evidence-Based Responsiveness

 

 

 その際の発表内容が心療内科学会誌に先日掲載されました。

www.jspim.org

英文だとなかなか自分の思いを表現できませんが、日本語だと気持ちよく表現できるので、日本語でも機会を見つけて論文なり表現なりしていきたいなと思っています。このような機会があるのも、恩師の前沢 政次先生が声をかけてくださったお陰です。学生時代から朝の時間に診察の練習や、ケーススタディの勉強に付き合って下さった本当によい先生です。今でも地域医療に熱意を持って取り組まれているお姿に刺激を受けながら、私も頑張らねばと思う日々です。

精神科病院の見学に行ってきました

以前に、とある精神科病院の見学のご報告をしましたが、今回は木村精神保健福祉士も入職したのでご挨拶を兼ねて、4つの精神科病院への挨拶、そのうち2つは見学までさせていただきました。

 

どのような病院で、どのような方針をもっていらっしゃるのか、実際に目で見ないとわからないことが多いものです。どんな患者さんやスタッフの雰囲気か、病室はどうなっているか、集中的な治療をする部屋はどのような感じか、デイケア作業療法、外から見た雰囲気、周りの環境・・・それぞれの特徴をよく理解したうえで、入院が必要な患者さんをご紹介しないとと改めて思いました。

 

少子高齢化による人口構成の変化がますます進むと、私たちが目にする疾患も徐々に変化していくと思います。より多くの方のお役に立てるように、私たち診療所も病院も変化を念頭に進んでいかなければならないでしょう。

 

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挨拶周りの途中で寄ったうどん屋です。おいしかったです!




継承して1年が経ちました

創業された大橋院長から、クリニックを継承して1年が過ぎました。

1年前のブログでは・・・

「当院では自分や自分の家族に受けてもらいたいような治療を目指していこうと思っています。」

「治療を必要としているのに通院できない方にもお役に立てるよう、訪問診療(往診)に力を入れていこうと思います。」

「仕事がしたいけれど、障害のためにあきらめている方、うまくいかない方の支援にも力を入れたいと思います。」

 「そのためには、当院だけの力ではなくて、生活の支援、仕事の支援をしてくださる地域の機関の方々とも力を合わせていかなければいけません。」

 と書きました。この方針の下、1年を過ごしてきました。

 

継承当初は訪問診療のニーズがあまりないんじゃないかと思うようなペースでしたが、受診や受診の継続が難しい方もいらっしゃって、少数ではありますが、毎週どなたかのお家に訪問診療を行っています。身体面で不安定な方もおり、内科の先生との連携を次の課題として進んでいきたいと思います。

 

就労・生活支援は自分自身がいくつかの機関に見学に行きました。昨年はいずれは信頼できる精神保健福祉士に来てほしいけれど、しばらくは自分自身が動かなくてはならないと考えていました。しかし、思わぬタイミングで木村精神保健福祉士が当院に勤務してくれることになりました。非常に心強く思っています。早速様々な施設・機関の見学をして、それらの資料をまとめてくれました。おそらく、このような資料は他の病院・クリニック・機関にないものです。やはり、どのような場所で、どのような人がいるのか実際に目で見て知らなければ、自信をもって患者さんに勧めることはできません。

このような取り組みも含めて、ケースワークについて本を1,2年の間にまとめることができればと夢を持っています。

 

当院は小さなクリニックです。このようなクリニックは日本にたくさんあると思います。小さなクリニックでもできること、しかし、他のクリニックでは行っていない取り組みを工夫して、それを他のクリニックでも実践できるようにまとめて公表していきたいと思います。

 

カウンセリングも少しずつ再開しさらに磨いていきたいと思います。まだなかなか解決できない問題も研究という方法で少しでも前に進めることができたらと思っています。

 

いずれにせよ、このように私が活動できるのも、18年にわたってこの地で臨床を積み重ねてきた大橋先生の実践や色々な方のご指導・ご支援があってこそだと感謝しております。ありがとうございます。

 

職員、自分自身の健康も保ちながら、少しでも患者さんのお役に立つように研鑽してまいります。

さて、これから次の1年です。

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職員から1年目お祝いのお花をいただきました。受付に飾りましたので、ご一緒に楽しんでいただければ。

 

障害者能力開発校って何? 兵庫県障害者能力開発校レポート

精神保健福祉士の木村が色々な就労支援施設を見学にいってくれています。パンフレットやインターネットの情報ではわからないことが多いので、実際に見学して情報を収集してくれる職員がいるのは当院にとって大きな力です。

 

さて、今回は木村から、兵庫県障害者能力開発校についてのレポートです。

www.hyoushou.jp

 

障害者職業能力開発校って?

・就職を目指して、知識や技能、技術を習得することを目指した施設です。

・年齢制限はありませんが、卒業時に就労可能な方が対象となります。

 就労は、基本的には障害者就労を目指しています。

・カリキュラムは全員で同じものを受講します。

・入校には色々な応募資格がありますが、精神障害の方は、就労支援機関の推薦が必要です。

・援護措置(お金の補助)も受けれますが、手帳の有無や収入用件等、いくつかの基準があ

ります。

※名前を記載せずに人材リストを作成されていて、見学に来た企業さんに見てもらえるようになっています。

毎年企業説明会もあるので、企業さん側から依頼がくることもあるそうです。

 ハローワークからも毎日のように求人が届くので、就職に向けた体制・取り組みはかなりしっかりされています。

 卒業よりも早くに就職が決まった場合は、就職を優先して早期の卒業も可能です。

 

〇コース

・身体等に障害がある方 → OA事務科/インテリアCAD科 (各1年)

精神障害の方も相談のうえ選考によっては通所可能です。

 

・知的障害がある方 → 総合実務科 (1年、基本通校可能な方が対象)

※立ち仕事を選んで就職される方が多いです。

 販売、パソコン、清掃、介護等々の訓練を受けることができます。

 

精神障害がある方 → ビジネス実務科 (半年、基本通校可能な方が対象)

 前半:10:30~15:30  後半:9:35~15:30

※広く浅く色々な経験をして、自分を知って長く続けられる仕事を見つけます。

※最近の障害者求人は事務系が多いそうです。

 

〇就職後

・定着支援の主体は、就業・生活支援センターさんとなりますが、必要に応じて、障害者職業センターへの繋ぎも行って下さるので、ジョブコーチさんが付くこともあります。

 

兵庫県障害者職業能力開発校レポート:

 

 兵庫障害者職業能力開発校に見学に行ってきました。

JR伊丹駅から歩いて10分、駅からは程よい距離の所にあり、外観も学校らしい建物です。

担当者にお話を伺うと、就職を目的とした施設ということで、販売や介護、パソコン、農業等々、広く色々な経験ができる環境が整っていて、長く仕事を続けられるように知識、技術、技能が習得できるようにしていると仰っていました。校外にも実習先があるとのことで、より現実的な環境も用意されているのも良い点だと思いました。

就職の機会としては、毎年、企業説明会も行っていて、数十社の企業の方が来られたり、ほぼ毎日ハローワークから求人情報が届いたりもあるので、卒業を待たずに就職を決められ、早期に卒業をする方もおられるそうです。就労への門戸は常に開かれている印象でした。

さらに、日商PC検定やニュース時事能力検定といった資格取得も目指せますし、収入要件などいくつかの基準判定はありますが、金銭補助も受けることができるので、自力通所が出来て、月~金まで通える体力と集団での訓練が可能な準備が出来ている方でしたが、入校を検討されてもよいのではないかと思いました。

就労すると色々なことがありますが、しっかり準備して進めていくと自信もつくと思いますし、適正も見えてくるものがあると思いますし、自分の未来も開けてくると思いますので、興味関心を持たれた方はハローワークや就業・生活支援センターに相談されてみてはいかがでしょうか。(入校には就労支援機関の推薦が必要です)

 

 

お話ししてきました: うつ病とは何か? 歴史・人生・多文化の視点から考える (専門家向け)

先日、三宮で医師向けに講演してきました。

うつ病という概念について、特にDSM-IIIからの操作的診断が出現するに至った面白いエピソードをKendlerさんの論文を引用して紹介しました。多くの人がうつ病とは〇〇だという定義を提唱してきました。精神医学の信頼性が揺らいだ1950年代、60年代を経て、信頼性を高めるための一つの答えが操作的診断だったかもしれませんが、これもまた人間の観察に基づくものだったというものです。

うつ病の診断については、内因性うつ病の妥当性なども面白いトピックですが、今回は触れませんでした。こちらは現在作成中の論文を発表出来たらまた世の中にも提案する価値があるトピックだと思います。

人の一生の中でもうつ病がどのように変遷するかをいくつかの研究を紹介しました。どうやら一様なものではないということが私の意見です。

多文化の視点では、私がかつて行った、チベット、台湾、土佐町のうつ病の説明モデルの研究を紹介しました。

疾病概念、その成立過程については常々興味があり、Amokの研究もしましたが、まだ手元に未発表のデータがあるので、早いこと論文にしなければと思っています。