こころの診療所 から

宝塚市大橋クリニックの院長ブログです

専門家向け: うつ病についての論文が出版されました

うつ病とは何か?疾患概念に関わる思い入れのある研究が出版されました。

link.springer.com

うつ病抗うつ薬による治療には根強い考えがあります。それは、内因性うつ病DSMでいうところのメランコリックタイプには抗うつ薬が良く効くが、そうでないものにはあまり効かないというものです。私はそのように教育されてきました。
実は、研究上はこれを否定する結果のほうが多数です。ところが、これまでの研究の欠点は、メランコリックタイプvsそれ以外に抗うつ薬を投与して比較するものや、メランコリックタイプの集団の中で抗うつ薬vsプラセボで比較するものばかりでした。
しかし、「メランコリックタイプはそれ以外のうつ病よりも抗うつ薬がよく効く」という疑問に正確に答えるには、抗うつ薬の効果からプラセボの効果を差し引いたものを指標として、メランコリックタイプとそうでないうつ病の間で比較する必要があります。
今回の研究はそれを実施しました。
メランコリックタイプがそのほかのうつ病よりもプラセボに比べて抗うつ薬への反応は強いとは言えないという結果になりました。
確かに、メランコリックタイプは抗うつ薬への反応が他のうつ病よりも大きい。しかし!プラセボに対する反応もメランコリックタイプは他のうつ病よりも大きい。従って、差し引きすると、そんなにかわらないということになりました。これはlinear mixed modelを使った結果です。
これが正しいとすると、メランコリックタイプとは何なのか?内因性という概念は何なのか?ロマンがあります。
以前、Amokという題材、歴史軸という切り口で病気とは何か?を考察しましたが、このように実証的にアプローチする方法も格好いいなと思う今日この頃です。
今回の論文は統計家の先生の解析や教授の指導によるところが大きいし、データ自体も数社の製薬会社のIndividual participants dataを用いました。これにはInternational College of Neuropsychopharmacology (CINP), the Japanese Society of Neuropsychopharmacology (JSNP)と製薬企業の協力があってできたものでした。私が筆頭著者ですが、まったくもって私の力とは言えない研究です。