こころの診療所 から

宝塚市大橋クリニックの院長ブログです

「成熟スイッチ」を読んで

先日、林真理子さんの「成熟スイッチ」という本を読みました。コロナで人との接触がめっきり減ったり、忙しさで習い事をやめてそのままになっていたり、人と比べてしまったりで、どうも気持ちが満たされず、本でも読んでみようと本屋に行ったのです。

林真理子さんといえば作家として有名で、最近では日大の理事長になったことでよくテレビにでておられました。はずかしながら、林さんの本は読んだことがなかったのですが、書店の入り口に目立っていたので買ってしまいました。

 

主にはご自身のこれまでの来た道、社交について、両親や親族についてのお話でした。特に人との関わり方の話が多くて、社交場面で気を付けることは参考になりました。ただ、社交といっても林さんの社交は、それそれは華やか。

さて、そんなわけで、私がいつそんな社交の気遣いを生かせるのかわかりませんが、二つほど記憶に残った部分があるのでご紹介します。

いっぱい本を読んだからって、立派な大人になって、いい会社に入れるとはかぎらない。でも、本を読むと、大人になった時に一人でいることを恐れずに済む人間になれます。

本をよく読んでいたころは、何かを求めて本を読んだり、楽しいから本を読んだりしていました。ところが、この一文を読んだ時に、本を読むことの新しい面がぱっと光ったような気がしました。

私が特に本をたくさん読んだのは、大学受験に落ちて浪人していた時のことでした。人との接点もなく、ずっと家にこもっていました。振り返ると、あの時本を読んだり、音楽を聴いたり、運動したりしていなかったら、果たして耐えられたかなと思います。

生きていると孤独を感じるときはあると思います。作者の思いと文章を行きつ戻りつしながら、何かを感じる一節があれば、そこには人とのつながりがあるように思います。

誰にも分ってもらえなくても、誰かに相談する勇気がなくても、本を開いて同じように悩む作者を感じることができたら、なぜかしら頑張ろうという支えになるかもしれません。

というわけで、また本屋で本を買ってみようと思うのでした。

さて、もう一文。

 私は東日本大震災のボランティアをやった時に、みんながみんな感謝をしてくれるわけではないということを知りました。「お金持ちのオバさんたちの道楽」みたいな言われ方をしたこともあったのです。だけど、めげずに、やる。そうして、

「感謝されたいなんて、ちょっとでも思った自分が卑しかったな」

と反省しました。一つ何かをやると必ず何かを教えてもらえる。つまりは、何もやらなかったら、何も学べないということです。

 ちょっとしたことでいいから何か新しいことをして、昨日とは少し違った自分になってみる。成熟にはキリがありません。毎日新しいスイッチを入れながら、自分の変化を楽しむことが出来たら、なんて素敵な人生でしょう。

行動する。大変なことがあってもやり続けてみる。挑戦する。確かに大事なことと思います。行動や積み重ねが道を開いたり、自分の可能性や能力を広げてくれると思います。私が好きなリクルートの社訓があります。「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」というものです。これも挑戦の価値を伝えている言葉と思います。

そうはいえども、私にはそんな大それたことが日々あるわけでもないし、なかなか疲れてしまいそうです。

でもふと考えると、例えば、机の上に昨日からあったごみを捨てるとか、それこそ本を開いてみるなんということも、行動ですよね。ネガティブなことが渦巻いている中でも、自分はそんなに悪いところばかりじゃないよ、と自分に言ってあげることも行動です。自分の体をさすって、自分をいたわってあげるという行動もあります。

先が見えづらい時でも、そんな挑戦をしてみるのも一つと思います。

つれづれと読書感想文でした。