こころの診療所 から

宝塚市大橋クリニックの院長ブログです

本の紹介: ボクはやっと認知症のことがわかった

本の紹介です。「ボクはやっと認知症のことがわかった」長谷川和夫著。

長谷川先生は認知症研究の世界で日本では超有名人です。物忘れの検査には代表的な2つの検査があります。MMSEというものと長谷川式スケールです。後者を作ったのが長谷川先生です。

私自身は海外の方が作ったMMSEを使用することが多いですが、実臨床では長谷川式スケールを使われている方もたくさんいます。実はMMSEが発表される1年前に長谷川式スケールが作られたということ。すごいことです。

さて、本書はそんな認知症の世界で最も有名な精神科医認知症になって、ご自身の体験を書いた本です。臨床家・研究者だけあって、認知症の方の内面について明確なイメージで書かれています。

長谷川先生はデイサービスなど認知症に関わる制度も提唱してこられた先生ですが、サービスを受ける立場となり感じていることなど、ありのままを記載されていらっしゃいます。

ご自身の人生についても振り返っておられますが、おそらく大変率直で、患者さんの気持ちを大切にされた先生だったのだろうと思います。

このような高名な先生が、自らをさらけだすような本を書かれるというのは、ご家族も含めて勇気が必要に思います。ご自身はキリスト教の信者ということで、本の中に好きな聖書の一節が紹介されていますが、それを読むと、なるほど、だからこそご自身をみんなのために役立てたいと思っていらっしゃるのかと思いました。私自身ももっと人のために何かをするという気持ちを磨かなければと思った次第です。ちなみにその部分を印象すると、

「一粒の麦、地に落ちて死なずば、唯一つにて在らん、もし死なば、多くの果を結ぶべし。」は新約聖書ヨハネ伝』第十二章二十四節の言葉。一つの麦はそのままでは一粒だが、地に落ち、死んで芽を出せばやがて多くの実がなるというキリストの教えから、人々の幸せのために進んで犠牲になる人を指す。

 私自身はキリスト教の信者というわけでもなく、医療の中に宗教を持ち込むのも、それぞれの患者さんの人生観があるので抵抗がありますが、自身の生き方としてよい指針を持ち、大事にしていく勇気があれば、たとえつらいことが多くても、それは素晴らしい人生のように思います。

認知症の方の思いを知りたい方には大変お勧めな本だと思います。