こころの診療所 から

宝塚市大橋クリニックの院長ブログです

本の紹介: ひきこもりの真実

今日は本の紹介です。「ひきこもりの真実ー就労より自立より大切なこと」林恭子著。

 

 

精神科医になった頃、私は特に「ひきこもり」だからどうだ、こうだと意識するでもなく、臨床を続けていました。転機は、大阪府寝屋川市の三家クリニックでの勤務です。三家クリニックは精神科の訪問診療をしているということで、ぜひ勉強させてほしいと勤務した場所でした。

勤務してから数年経ち、院長が「ひきこもり外来をするのでその担当になってほしい」と告げられ、そこから「ひきこもり」状態との意識的なかかわりが続いています。

本人はもとより、家族も深く悩み、それぞれが内なる葛藤を持ちながら、お互いもまた葛藤している。大変難しい問題で、私も一体何ができるだろうと、強いプレッシャーを感じることが多いです。関連する本もいろいろと読みましたが、内容もそれぞれで、その通りしたからといって、うまくいくとも限りません。(ただし、治療可能な病気の場合のこともあり、これはしっかりお役に立てそう!と思うこともしばしばあります。)

本書はそんな中、当事者の立場から支援のありかたを書いた本です。自助会の価値や、就労支援だけが目標ではないということ、ひきこもった状態というあり方を支援することがあってもよいのではということなどのメッセージが書かれてありました。

やはり経験者なので、言葉の重みが違います。それからどんなことでもそうですが、経験者だからこその支援の深みというものがあると思うので、自助会も非常に価値があると思いました。

それからひきこもった状態も許容できるような寛容な社会に変化してほしいということも書かれてありました。

確かに世の中が生きやすいかといわれると、厳しい労働環境や批判飛び交う社会を見ていると辛いところもあると思います。一方で、子供の行く末を心配する親の姿も切実なものです。寛容だった世の中がこれまであったかと問われると、むしろ我々の先祖たちはよく生き抜いたなと見返す世の中が続いてきたように思います。その中で、悩まなければならないのが現状です。

いつも大変な世の中かもしれませんが、身近なところにささやかな安らぎがあればよいなと願うばかりです。

そんなことを読みながら考えました。