こころの診療所 から

宝塚市大橋クリニックの院長ブログです

本の紹介「東大教授、若年性アルツハイマーになる」

今回は本の紹介です。「東大教授、若年性アルツハイマーになる」若井克子著。

以前、認知症の専門家が認知症になって書かれた本をご紹介しました。

ohashiclinic.hateblo.jp

ご自身からみた認知症の様子について、今もよくご紹介する本です。残念ながら、長谷川和夫先生は2021年11月にお亡くなりになられました。ご冥福をお祈り申し上げます。

 

今回は、主に家族の視点から書かれた本です。

著者の夫の若井晋先生が認知症ではないかと疑い始めたころのことから、亡くなるまでのお話が書かれてあります。認知症の話題だけではなくて、このご夫婦のなれそめや、若井晋先生がどのような方だったかが、温かみをもって感じられる本です。

一方で、本の中には若井先生が認知症になり始めたころに書かれた直筆の日記の写真があって、そこには何回も漢字を練習している跡があります。そんな、かなりリアルなものも入れられており、ご本人の感情が伝わってくる非常に重みのある本だと思います。

認知症について伝えたいというよりは、このような方がいたこと、そうして、そのような方と一緒に過ごしてきたこと、それを思い返して記したもののように思います。それを私たちに見せてくれた、存在をこの世にそっと置いてくれた、そんな気がしました。

冒頭に、

晋は若年性アルツハイマー病の当事者として、私とともに人生という「旅」を続けてきました。この本はいわば、その旅の記録です。

と書かれてありますが、この表現が一番ぴったりくる本だと思います。

とはいえ、ご家族の悩み、どう付き合っていったかを見せていただくことは、同じような悩みを持たれている方にも参考になるように思います。ぜひ、読んでみていただけたらと思います。

その他、印象に残った言葉を引用して本書の紹介を終わりたいと思います。

ある参加者からは、

「人の価値についてどう思いますか」

と、こんな質問が。とっさには答えにくい問いですが、晋は動じるふうもなく、こう応じたのです。

「人生で一番大切なことは何か、ということが分からない人、分かる人、いろいろあると思うんです。その中で一人一人が自分の生き様に合わせて絶えず歩み続ける。そういう中で私も生きてゆきたい。これからも、この後も生きていきたいなと思います」

 

質問者(クリスティーン・ブライデンは)「アルツハイマーとはどんどん余分なものが取り払われて本当の自分になっていく」とおっしゃっていたけれど、その感じはいかがですか。

晋 今まで自分が何かいいことをしたとか、そういうものが私たちではないんじゃないかと思うんです。

 大切なことは私たちが本当の自分と出会うことじゃないかと。自分が自分になって他の人と一緒に歩んでいけるというところが大切なんじゃないかと思いますね。