こころの診療所 から

宝塚市大橋クリニックの院長ブログです

本の紹介: 夢を見る時 脳は ー 睡眠と夢の謎に迫る科学 (専門家向けかな?)

「夢を見る時 脳は ー 睡眠と夢の謎に迫る科学」という本を紹介します。著者のお二人は睡眠を専門にしているモントリオール大学とハーバード大学の教授です。

なぜ人間は夢を見るのか?という疑問に対して、今わかっている最新の知識を解説してくれます。本書の面白いところは、睡眠と夢の研究の歴史について紹介してくれているところです。

夢といえば、夢分析を書いたフロイトが有名ですが、夢が願望を反映することはそれ以前から研究者が指摘していたそうです。フロイトが夢に現れるものを性的な象徴と考えたことも、フロイトより40年前にシュルナーという研究者が記述していたということも書かれてあります。研究という一見科学的なものも、プロモーションによっていかに影響されるか、とても面白かったです。

研究方法や発見の歴史も非常に興味深かったです。寝ている間にオーデコロンを嗅がせたり、熱した鉄片を近づけて、どんな夢を見るかという古い研究の紹介や、とにかくいろいろな人の夢の内容を分析した研究など、研究者の色々な工夫がクリエィティブでした。明晰夢(夢の中で自分が夢を見ていることがわかる夢)、テレパシーの話などちょっとそれこそ”夢”のある話もありました。

夢の研究の中で大きな転換点はREM睡眠とNon-REM睡眠の発見と思います。睡眠には段階があること、それぞれの機能がどうやら違いそうだということ。これまで私の知識ではREM睡眠時に夢をみると記憶していましたが、この本によると、どうやらNon-REM睡眠の時にも夢を見ているということなのです。しかし、REM睡眠時に見る夢と内容が異なるとか。本書ではそれと関連させながら、学習や問題解決にかかわる夢の役割が後半では紹介されていきます。夢を創造的に生かすにはどうするか、なんていうことをしている方々も紹介されます。

精神科の臨床に特にかかわりがあるのは、「悪夢」です。PTSD心的外傷後ストレス障害)では反復する「悪夢」を認めることがしばしばありますが、それとは関係なくとも「悪夢」の治療についても紹介されていました。医者として〇〇障害の治療などは勉強してきましたが、症状としての「悪夢」への治療というのもあるのだとわかり勉強になりました。この分野の治療についてもさらに身に着けていきたいと思っています。

なにせもりだくさんで分厚い本です。後半はちょっと同じようなことの反復に思えてしまいましたが、大変面白い本でした。夢に興味のある方にはとてもお勧めです。